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東京高等裁判所 平成10年(行ケ)80号 判決 1998年9月10日

愛知県豊川市本野ケ原3丁目22番地

原告

オーエスジー株式会社

代表者代表取締役

大沢輝秀

訴訟代理人弁理士

池田治幸

中島三千雄

神戸典和

村橋史雄

石田昌彦

大阪府大阪市北区天満1丁目26番3号

被告

株式会社オーエスジー・コーポレーション

(旧商号 株式会社 大阪三愛)

代表者代表取締役

湯川剛

訴訟代理人弁護士

南川博茂

同弁理士

高木義輝

主文

特許庁が平成4年審判第7547号事件について平成10年1月29日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第1  当事者の求めた裁判

1  原告

主文と同旨の判決

2  被告

「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決

第2  請求の原因

1  特許庁における手続の経緯

被告は、別添審決書写し(以下「審決書」という。)別紙(1)に示す構成よりなり、指定商品を商標法施行令(平成3年政令第299号による改正前のもの)別表第10類「理化学機械器具(電子応用機械器具に属するものを除く)、光学機械器具(電子応用機械器具に属するものを除く)、写真機械器具、映画機械器具、測定機械器具(電子応用機械器具に属するもの及び電気磁気測定器を除く)、医療機械器具、これらの部品及び附属品(他の類に属するものを除く)、写真材料」とする登録第2137845号商標(昭和61年12月26日登録出願、平成1年5月30日設定登録。以下「本件商標」という。)の商標権者である。ただし、上記指定商品中の「理化学機械器具(電子応用機械器具に属するものを除く)、光学機械器具(電子応用機械器具に属するものを除く)、写真機械器具、映画機械器具、測定機械器具(電子応用機械器具に属するもの及び電気磁気測定器を除く)、これらの部品及び附属品(他の類に属するものを除く)、写真材料」について、平成4年10月16日付けで商標権の放棄がなされ、平成5年4月19日付けでその抹消登録がなされている。

原告は、平成4年4月22日、被告を被請求人として、本件商標登録を無効にすることについて審判を請求し、平成4年審判第7547号事件として審理された結果、平成10年1月29日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決があり、その謄本は同年2月18日原告に送達された。

2  審決の理由

審決の理由は審決書記載のとおりであり、その要旨は、本件商標と引用商標(審決書別紙(2)に示す構成よりなる登録第333227号商標)とは、その称呼、観念及び外観のいずれの点においても類似しない商標であって、本件商標は、商標法4条1項11号に違背して登録されたものではないから、同法46条1項によりその登録を無効とすることはできない、としたものである。

3  審決を取り消すべき事由

審決の理由1(本件商標の構成、指定商品、出願日、登録日等)、2(引用商標の構成、指定商品、出願日、登録日等)、3(請求人(原告)の審判請求及び主張)、4(被請求人(被告)の答弁)は認める。同5(判断)のうち、本件商標と引用商標とは外観及び観念において類似するものとはいえないこと、本件商標は、その左端が欧文字の「O」であり、右端が欧文字の「G」であることは容易に理解されるものであることは認めるが、その余は争う。

審決は、本件商標の左端の欧文字である「O」と右端の欧文字である「G」との中間に表されている曲線(本件曲線)について、特定の欧文字を表示してなるものとは容易に理解し得ないものであり、本件商標から「オーエスジー」の称呼は生じないから、本件商標と引用商標とはその称呼において類似しない旨認定、判断しているが、誤りである。

(1)  本件曲線は、多数の欧文書体集に掲載されている欧文字「S」のレタリング文字とほぼ同一の書体によりなるものである(甲第4号証ないし甲第8号証)。

また、甲第5号証(「アルファベット書体集330」株式会社グラフィック社発行)の34頁に掲載されている書体「Bauhaus leicht」、35頁に掲載されている「Bauhaus extrafett」及び107頁に掲載されている書体「Mirage」、並びに甲第6号証(「欧字書体集」株式会社グラフィック社発行)の61頁に掲載されている「チャーチワード・ノーマル」及び62頁に掲載されている「チャーチワード・メディウム」等においては、本件曲線のみならず、それ以外の本件商標の構成文字である欧文字「O」及び「G」についても、掲載されている各書体と共通する特徴のある書体となっている。このことは、本件商標を構成する3文字がいずれもデザイン文字としての統一性を有するものであることを示すものであり、このような場合、明らかに欧文字「O」及び「G」と認識される文字の中間に位置する本件曲線は、一般需要者・取引者において、欧文字「S」であると一層認識されやすいものである。

(2)  また、本件曲線とほぼ同一の書体からなる欧文字「S」のレタリング文字が多数存在することが示すように、本件曲線は、本来の「S」の文字の特徴を失っているものではない。すなわち、レタリング文字は文字をデザイン化したものではあるが、それ自体が文字としての情報伝達機能を失う程度にまで抽象化されることは、その性質上許されないため、文字として機能し得ないようなものが多数のレタリング書体集に掲載されるとは考えられない。

(3)  加えて、商標が付される商品には、その商品の製造・販売元が明記されることが一般的であるところ、被告は、その商号を平成10年2月1日付けで「株式会社大阪三愛」から「株式会社オーエスジー・コーポレーション」に変更しており、被告が営業活動を行う際に用いる名刺には、その左上部に本件商標が記されるとともに、その中段に「株式会社OSGコーポレーション」の文字が記されていることから、本件商標は、被告の商号の略称に由来するものであると容易に推測される。これらのことからも、一般需要者・取引者は、本件商標を「オーエスジー」と称呼されるものと認識すると考えられる。

(4)  したがって、本件曲線は、「エス」と称呼される欧文字の「S」と容易に認識され、理解されるものであり、かつ、本件商標の左端の欧文字「O」が「オー」と称呼され、右端の欧文字「G」が「ジー」と称呼されることは明らかであるから、本件商標から生じる称呼は、引用商標から生じる称呼と同一の「オーエスジー」である。

よって、番決の上記認定、判断は誤りである。

第3  請求の原因に対する認否及び反論

1  請求の原因1及び2は認める。同3は争う。審決の認定、判断は正当であって、原告主張の誤りはない。

2  反論

(1)  本件曲線は波形の図形であり、特定の欧文字を表示してなるものとは容易に理解し得ないものである。

商標の類否は、商標が使用される商品の主たる需要者層、その他商品の実情を考慮し、需要者の通常有する注意力を基準として判断しなければならないが、レタリングの専門家でない本件商標の指定商品である医療機械器具の需要者層にとっては、本件曲線は波形の図形としか認識されないし、欧文字「S」の特徴を有するものでもない。

被告の現在の商号が「株式会社オーエスジー・コーポレーション」であることは、本件曲線を欧文字の「S」とする根拠にはならない。

(2)  原告は、本件曲線は多数の欧文書体集に掲載されている欧文字「S」のレタリング文字とほぼ同一の書体によりなるものである旨主張し、甲第4号証ないし第8号証を引用している。

しかしながら、甲第4号証(「欧文書体集1488」株式会社オーク出版サービス発売)には1488例の書体が掲載されていると思われるが、その中で、欧文字「S」のレタリング文字で本件曲線と似かよった書体のものは10例にも満たず、その出現率は0.006%である。そして、そのレタリング文字の形態は本件曲線とは縦横の比率において明らかに相違している。

甲第5号証(「アルファベット書体集330」株式会社グラフィック社発行)には330例の書体が掲載されているが、欧文字「S」のレタリング文字で本件曲線と似かよった書体のものの出現率は1%未満であり、また、その形態は本件曲線とは縦横の比率において明らかに相違している。

甲第6号証(「欧字書体集」株式会社グラフィック社発行)における、欧文字「S」のレタリング文字で本件曲線と似かよった書体のものの出現率は僅かであり、その形態も本件商標とは縦横の比率において相違している。

甲第7号証(「スーパーフォントコレクション」株式会社インプレス発行)には2475例程度の書体が掲載されているものと推測されるが、欧文字「S」のレタリング文字で本件曲線と似かよった書体のものは10余りと認められ、その出現率は1%に到底満たない。

甲第8号証(「レタリング教室」集文館発行)には700ないし800例の書体が掲載されているものと推測されるが、欧文字「S」のレタリング文字で本件曲線と似かよったものは僅か2又は3程度であって、その出現率は1%にも満たない。

このように、欧文書体集に掲載されている欧文字「S」のレタリング文字で本件曲線と似かよったものの出現率は100に1つもないのであって、需要者一般の通常の感覚からすれば、本件曲線が欧文字「S」のレタリング文字とほぼ同一の書体によりなるものであると認識することは困難であり、本件曲線について「エス」の称呼が生じるということは通常あり得ないものというべきである。

このことは、乙第4号証の1ないし11(「欧文レタリング大字典」東陽出版株式会社発行)、乙第5号証の1ないし12(「アルファベット字典」株式会社マール社発行)、乙第6号証の1ないし12(「アルファベット字典 Ⅱ」株式会社マール社発行)、乙第7号証の1ないし12(「アルファベット字典 Ⅲ 装飾体」株式会社マール社発行)のいずれにも本件曲線に似かよった字体例が全く掲載されていないこと、乙第8号証の1ないし12(「自由に使える装飾アルファベット」グラフィック社発行)及び乙第9号証の1ないし71(「FONT97年度版」プリプレス技術協同組合発行)には、本件曲線と比較的近似したものが各1例掲載されているにすぎないことからも裏付けられるところである。

理由

1  請求の原因1(特許庁における手続の経緯)及び2(審決の理由の記載)、並びに審決の理由(2)(引用商標の構成、指定商品、出願日、登録日等)は、当事者間に争いがない。

2  そこで、原告主張の取消事由の当否について検討する。

(1)  本件商標と引用商標とが外観及び観念において類似するものとはいえないこと、本件商標は、その左端が欧文字の「O」であり、右端が欧文字の「G」であることは容易に理解されるものであることは、当事者間に争いがない。

また、引用商標からは「オーエスジー」の称呼が生じるものと認められる。

(2)  本件商標の構成は審決書の別紙(1)に表示のとおりであるところ、甲第4号証(「欧文書体集1488」株式会社オーク出版サービス発売)、甲第5号証(「アルファベット書体集330」株式会社グラフィック社1997年9月25日発行)、甲第6号証(「欧字書体集」株式会社グラフィック社1985年4月15日発行)、甲第7号証(「True Type スーパーフォントコレクション for Windows」株式会社インプレス1994年11月11日発行)及び甲第8号証(「レタリング教室」集文館1989年7月15日発行)には、欧文字「S」のレタリング文字として、本件曲線とよく似た形態のものがいくつか掲載されていることが認められること、甲第10号証(被告作成の名刺)の左上部には本件商標が記載されているが、その書体は、中段に記載されている「株式会社OSGコーポレーション」のうちの「OSG」の部分を変形したものであると認められることからすると、本件曲線は欧文字「S」の書体を変形したものであると認められる。

そして、上記(1)に説示のとおり、本件商標は、その左端が欧文字の「O」であり、右端が欧文字の「G」であることが容易に理解されるから、本件商標に接する者は、これらの欧文字に挟まれた中央の本件曲線も同様に欧文字であると認識するのが自然であり、また、本件曲線の形態が欧文字「S」の特徴を失っているものではないことに照らすと、本件商標に接する取引者・需要者においては、本件曲線は欧文字の「S」を変形した書体であると看取し認識するのが通常であると認められる。

したがって、本件商標からは、「オーエスジー」の称呼が生じるものと認められる。

(3)  被告は、本件曲線は波形の図形であり、特定の欧文字を表示してなるものとは容易に理解し得ないものであるとして、レタリングの専門家でない本件商標の指定商品である医療機械器具の需要者層にとっては、本件曲線は波形の図形としか認識されないものであるし、欧文字「S」の特徴を有するものでもない旨主張するほか、甲第4号証ないし甲第8号証の各書体集に掲載されている欧文字「S」のレタリング文字で本件曲線と似かよったものは僅かであって、需要者一般の通常の感覚からすれば、本件曲線が欧文字「S」のレタリング文字とほぼ同一の書体よりなるものであると認識することは困難であり、このことは、乙第4号証の1ないし11、乙第5号証ないし乙第7号証の各1ないし12のいずれにも本件曲線と似かよった字体例が全く掲載されていないことや、乙第8号証の1ないし12、乙第9号証の1ないし71には、本件曲線と比較的似かよったものが各1例掲載されているにすぎないことからも裏付けられる旨主張している。

しかしながら、本件曲線が欧文字の「S」を変形した書体であると認識されるのが通常であると認定し得るのは、前記のとおり、本件曲線が左端の欧文字「O」と右端の欧文字「G」に挟まれていることから、本件曲線に接する取引者・需要者において、本件曲線も同様に欧文字であると認識するのが自然であること、及び本件曲線の形態が欧文字「S」の特徴を失っているものではないことによるのであって、取引者・需要者がレタリングに関する知識を有する者であるか否かということや、欧文書体集等に、欧文字「S」のレタリング文字として本件曲線とよく似た形態のものがどの程度の割合で掲載されているかといったことは上記認定を左右するに足りるものではない。

したがって、本件曲線は波形の図形であり、特定の欧文字を表示してなるものとは理解し得ない旨の被告の上記主張は採用することができない。

(4)  以上のとおりであるから、本件曲線について、特定の欧文字を表示してなるものとは容易に理解し得ないものであり、本件商標から「オーエスジー」の称呼は生じないから、本件商標と引用商標とは称呼において類似しないとした審決の認定、判断は誤りというべきであり、原告主張の取消事由は理由がある。

3  よって、原告の本訴請求は理由があるから認容することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。

(口頭弁論終結の日 平成10年7月2日)

(裁判長裁判官 永井紀昭 裁判官 濵崎浩一 裁判官 市川正巳)

平成4年審判第7547号

審決

愛知県豊川市本野ケ原三丁目22番地

請求人 オーエスジー 株式会社

愛知県名古屋市中村区名駅三丁目14番16号 東洋ビル 創和国際特許事務所

代理人弁理士 池田治幸

愛知県名古屋市中村区名駅三丁目14番16号 東洋ビル 創和国際特許事務所

代理人弁理士 中島三千雄

愛知県名古屋市中村区名駅三丁目14番16号 東洋ビル 創和国際特許事務所

代理人弁理士 神戸典和

大阪市天王寺区空堀町6番12号

被請求人 株式会社 大阪三愛

大阪府大阪市西区江戸堀1丁目23番26号

代理人弁理士 高木義輝

上記当事者間の登録第2137845号商標の登録無効審判事件について、次のとおり審決する.

結論

本件審判の請求は、成り立たない.

審判費用は、請求人の負担とする.

理由

1.本件登録第2137845号商標(以下、「本件商標」という。)は、別紙(1)に示す構成よりなり、第10類「理化学機械器具(電子応用機械器具に属するものを除く)、光学機械器具(電子応用機械器具に属するものを除く)、写真機械器具、映画機械器具、測定機械器具(電子応用機械器具に属するもの及び電気磁気測定器を除く)、医療機械器具、これらの部品及び附属品(他の類に属するものを除く)、写真材料」を指定商品として、昭和61年12月26日に登録出願、平成1年5月30日に登録されたものであるが、その後、平成4年10月16日付で、指定商品中の「理化学機械器具(電子応用機械器具に属するものを除く)、光学機械器具(電子応用機械器具に属するものを除く)、写真機械器具、映画機械器具、測定機械器具(電子応用機械器具に属するもの及び電気磁気測定器を除く)、これらの部品及び附属品(他の類に属するものを除く)、写真材料」について商標権の放棄がされ、その抹消登録が平成5年4月19日付でなされているものである。

2.請求人が本件商標の登録の無効理由として引用する登録第333227号商標(以下、「引用商標」という。)は、別紙(2)に示す構成よりなり、第18類「理化学、医術、測定、写真、教育用ノ器械器具、眼鏡及算数器ノ類並其ノ各部」を指定商品として、昭和14年11月13日に登録出願、同15年7月26日に登録、その後、同35年9月30日、同55年9月26日及び平成2年6月27日の三回に亘り商標権存続期間の更新登録がなされ、現に有効に存続しているものである。

3.請求人は、本件商標の登録は、これを無効にすべきものとする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由を次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第7号証を提出している。

(1)本件商標の構成

本件商標の構成は、別紙(1)に示すとおり、一定幅の線で描かれた正円と、その正円とほぼ同一の大きさで略同じ幅の線により描かれたS字状の曲線と、前記正円とほぼ同一の大きさおよび同じ幅の線により描かれたG字状の円弧とを、それぞれが隣接した状態で一連に横書きして成るものである。

(2)引用商標の構成

引用商標の構成は、別紙(2)に示すとおり、3個の欧文字「O」「S」「G」を、それぞれ隣合う文字の一部分が重なった状態で横書きして成るものである。第1文字の「O」及び第3文字の「G」は、第2文字の「S」に対して若干縦長に少々デザイン化されている。また「S」及び「G」は、隣合う文字との重なり部分付近が僅かに切断された状態となっている。

(3)本件商標と引用商標との対比

<1>外観について

本件商標において、左端部の正円と、右端部のG字状の円弧は、各々欧文字「O」「G」として認識されることは議論の余地がない。このような書体は、たとえば甲第5号証(株式会社オーク出版サービス 1991年発行『欧文書体集1488』1980年:フィルズ フォトォ会社発行『A Typeface Sourcebook HOMAGE TO THE ALPHABET』の1985年発行第2版の翻訳本)の第167頁に記載されているように、「フーツラデミ(FuturaDemi)」と称される書体として一般に広く知られ且つ使用されている。

また、本件商標の中央部に配されたS字状の曲線についても、欧文字「S」の基点付近及び終点付近の曲線部分の特徴を備えて、その筆順に従って左に流れるように無理なく抽象化されており、しかも両側の欧文字「O」及び「G」とほぼ同じ大きさ及び太さで描かれていることから、一見して欧文字「S」をやや崩したものであることがさほど困難なく認識され得る。

しかも、このようにデザイン化された欧文字「S」は、たとえば甲第5号証(欧文書体集)の第335頁や第435-A頁に記載されているように、一般に広く知られ且つ使用されている「スキン アンド ボーン(Skin & Bone)」や「プレミアライトライン(PremierLightline)」と称される書体の「S」とほぼ同一の曲線形である。本件商標では、たとえば上記プレミアライトライン型書体の「S」を、単に両側の欧文字「O」「G」に合わせて全体にやや太くして中央部に配置したに過ぎない。本件商標においては、上記「S」の両側に、書体の異なる「O」及び「G」が配されてはいるが、太さ及び大きさがそれらとほぼ同一とされていることから、前記曲線は単なる曲線図形ではなく、「O」及び「G」とともに一連の欧文字「OSG」を構成する欧文字「S」であることが本件商標が付された商品の取引者により容易に認識されるのである。

これに対し、引用商標の「O」「S」「G」の3文字は、たとえば一般に広く知られ且つ使用されている甲第5号証第37頁の「バスカビル(Baskerville)」と称される書体と同様のものである。第1文字の「O」及び第3文字の「G」が第2文字の「S」に対して若干縦長にデザイン化され、且つ隣合う文字同士が重なるように配置されて、「G」及び「S」においてその重なり部分付近が切れて描かれているが、それら3文字はいずれも欧文字「O」「S」「G」の特徴をそのまま備えており、引用商標が欧文字「O」「S」「G」を表したものであることは、極めて容易に認識される。

したがって、本件商標も引用商標も、欧文字「O」「S」「G」をそれぞれ横一列に並べたものであることから、両者は外観において互いに類似する商標であることは明白である。

<2>称呼について

上記のように、本件商標及び引用商標は、一見して欧文字「O」「S」「G」をデザイン化して横一列に並べたものであることが明らかであるため、これらの欧文字に相応して順に「オー」「エス」「ジー」の音が生じ、「オーエスジー」なる同一の称呼が各々生じることも明白である。

したがって、両者は称呼上において互いに同一の商標である。

<3>指定商品について

本件商標と引用商標の指定商品は、新旧の類別及び表現方法が相違しているが、実質的に両者の指定商品全般にわたって相互に重複していることは明白である。すなわち、本件商標の商品区分は現行法(昭和34年法)の第10類であるのに対し、引用商標の商品区分は大正10年法の旧第18類であるが、本件商標の指定商品である「理化学機械器具、光学機械器具、写真機械器具、映画機械器具、測定機械器具、医療機械器具、写真材料」は、引用商標の「理化学器械器具、眼鏡ノ類並其ノ各部、写真器械器具、測定器械器具、医術器械器具」にそれぞれ相当し、本件商標の指定商品は、引用商標の指定商品と同一又は類似の商品を包含するものである。

(4) 結論

以上詳述したように、本件商標と引用商標とは外観類似且つ称呼同一の関係にあって、しかも両者の指定商品は同一若しくは類似している。したがって、両商標が並存すれば、取引者のみならず、一般需要者において同一業者の製造販売に係る製品であるかのように出所の混同が生じることは明らかである。

よって、本件商標は商標法第4条第1項第11号に違反して登録されたものであり、しかも同法第47条の規定に該当するに至っていないから、同法第46条第1項第1号によって無効にされるべきものである。

なお、本件商標登録無効審判の請求人は、前記甲第3号証及び甲第4号証に示すように、引用商標の商標権者であって、現にその指定商品について使用している者であるから、本件商標登録無効審判の請求について重大な利害関係を有している。

4.被請求人は、結論同旨の審決を求めると答弁し、その理由を次のように述べ、乙第1号証ないし乙第5号証を提出している。

(1)請求人は、本件商標は商標法第4条第1項第11号に該当し、同法第46条の規定により無効にせらるるべきものであると主張する。しかしながら、請求人の前記主張は以下に述べるように、全く理由がないものである。

(2)平成4年4月22日に本件商標に対し、審判4-7547号として無効審判が請求された。

それで、本件商標について、同書と同日付の商標権の一部放棄書(乙第1号証)により指定商品の一部を放棄し、指定商品を「医療機械器具」に限定し、併せて、引用商標の「医術用ノ器械器具」について、同書と同日付で商標法第50条の不使用取消の審判請求(乙第2号証)を成したものである。

したがって、本件商標は、指定商品「医療器核器具」について有効に存続するものである。

(3)本件商標は、欧文字の「O」と「G」との間に波形の図形を介在させ横書きしたものである。これに対し、引用商標は、三個の欧文字「O」、「S」、「G」がそれぞれ隣合う文字の一部が重なりあった状態で横書きにしたものである。第1文字の「O」及び第3文字の「G」は、第2文字の「S」に対して若干縦長に少々デザイン化され、また、第2文字の「S」及び第3文字の「G」は隣合い重なり合う部分が僅かに切断された状態となっていて、第3文字の「G」の上に第2文字の「S」、第2文字の「S」の上に第1文字の「O」が重なった状態として表示されている。すなわち、「G」の上に「S」が、「S」の上に「O」が順に重ねられたものである。本件商標と引用商標とは、外観及び観念において全く異なることは明らかである。

称呼において、本件商標の称呼は、「オージー」「ゼロジー」、一方、引用商標の称呼は、「オーエスジー」「ジーエスオー」「ゼロエスジー」「ジーエスゼロ」と区々なものがあり得る。最も近いもので、本件商標からは、「オージー」の称呼が生じ、引用商標から「オーエスジー」の称呼が生じることから、両者は非類似であることは明らかである。

5.よって判断するに、本件商標と引用商標とは、別紙(1)及び(2)に示すとおりの構成のものであって、明らかにその外観が異なるから、両商標を見誤るおそれはないものとみるのが相当である。

請求人は、「本件商標も引用商標も、欧文字『O』『S』『G』をそれぞれ横一列に並べたものであることから、両者は外観において互いに類似する商標であることは明白である。」旨主張しているが、例え両商標は共に「O」「S」「G」の文字を表示したものであったとしても、両商標は別紙(1)及び(2)に示すとおり、その構成態様において顕著な相違があるから、両商標を見誤るおそれはないものであって、外観上類似するものとはいえない。

また、本件商標は、別紙(1)に示すとおりの構成よりなるところ、その左端が欧文字の「O」であり、右端が欧文字の「G」であることは容易に理解されるところである。

しかしながら、その中間に表されている曲線(以下、「本件曲線」という。)は、その態様からみて、特定の欧文字を表示してなるものとは容易に理解し得ないものとみるのが相当である。

請求人は、「本件商標の中央部に配されたS字状の曲線についても、欧文字『S』の基点付近及び終点付近の曲線部分の特徴を備えて、その筆順に従って左に流れるように無理なく抽象化されており、しかも両側の欧文字『O』及び『G』とほぼ同じ大きさ及び太さで描かれていることから、一見して欧文字「S」をやや崩したものであることがさほど困難なく認識され得る。しかも、このようにデザイン化された欧文字『S』は、たとえば甲第5号証(欧文書体集)の第335頁や第435-A頁に記載されているように、一般に広く知られ且つ使用されている『スキン アンド ボーン(Skin & Bone)』や『プレミアライトライン(PremierLightline)』と称される書体の『S』とほぼ同一の曲線形である。」旨主張しているが、そのような欧文字の「S」の書体があるとしても、本件曲線は、本来の「S」の文字の特徴である上下の丸みを失っており、欧文字の「S」として容易に認識し、理解し得ないとみるのが相当である。

そうとすれば、本件商標は、これからは請求人の主張する「オーエスジー」の称呼を生じないものというのが相当であるから、本件商標から「オーエスジー」の称呼が生じることを前提として両商標の称呼が類似するとする請求人の主張は、採用することができない。

また、本件商標は、特定の観念が生じないものと認められるから、両商標の観念は、比較すべくもないものである。

してみれば、本件商標と引用商標とは、その称呼、観念及び外観のいずれの点においても類似しない非類似の商標というべきである。

したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に違背して登録されたものではないから、同法第46条第1項により、その登録を無効とすることはできない。

よって、結論のとおり審決する。

平成10年1月29日

審判長 特許庁審判官

特許庁審判官

特許庁審判官

別紙

<省略>

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